ペイズリー・パーク訪問記

2016年10月6日から一般公開がスタートしたプリンスのペイズリー・パークだが、当初数週間は限定的な施設公開を余儀なくされた。ペイズリー・パークのあるミネアポリス郊外の町、チャナッセンの市議会が駐車場や集中混雑などを懸念して、一般公開直前に公開差し止めを決議したからだ。しかしすでに相当数のチケットがインターネットを通じて販売済みとなっていたため、限定的な公開で対応せざるをえなかったのだが、10月26日に市議会から正式に承認がおり、晴れてスケジュール通りの公開が可能になったのである。 paisleypark-ticket

10月30日19時のペイズリー・パーク・VIPツアーのチケットを手に、ミネアポリス・ダウンタウンからチャナッセンの町に向かった。チケットに記されている通り、ツアーの20分前にペイズリー・パークの駐車場に到着し、逸る心を抑えつつロビーにあるレセプションの女性にチケットを提示する。右側の壁面には数多くのゴールドディスクが飾られ、カラフルな衝立が並ぶ通路の奥には、プリンスの写真がレイアウトされたアトリウムが見える。

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予定より5分ほど早くツアーがスタートし、ガイドの女性に促されてカラフルなアトリウムに入る。中央にはセラミックで作られたペイズリー・パークの縮尺模型が置かれ、その中にあるパープルの陶器にプリンスの遺骨が納められている。アトリウムの右側にはプリンスの専用のアメリカン・テイストなダイナーがあり、左側にある4つの部屋には、時代ごとにセレクトされたプリンスの衣装やギターなど、多様なメモラビリアが展示されている。

プリンスの写真や映像作品で目にしたアイコニックなギターは注目の的だ。彼のメインギターである鼈甲柄のピックガードが印象的なマッドキャット(Honer社のテレキャスター・モデルで、製造は日本のH.S.Anderson)、多様なカラーリングや模様が施されたおなじみのクラウドギター、ウォッシュバーン製のアコースティック・ギターなど、「パープルレイン」や「サイン・オブ・タイム」などの映像にも登場した実物のギターが勢ぞろいである。

左側の一番奥の部屋がビデオ編集ルームになっており、名演と言われている2007年のスーパーボールのハーフタイム・ショウでのプリンスのライブなど、いくつかの興味深い映像を楽しめる。なんといっても見ものは、巨大なコンサート会場でリハーサルの様子を撮影した映像だ。普通のTシャツ姿のプリンスが、真剣な面持ちでサウンド・チェックを行いながらサポート・メンバーに指示を飛ばす様子は、アクティブできらびやかな本番のステージとは真逆の、静のプリンスが驚くほど格好良い。

映像を楽しんだ後は、アトリウムの右側奥にあるレコーディング・スタジオに向かう。スタジオAはプリンスのメイン・スタジオで、イメージやモチーフが浮かんだらすぐにレコーディングが出来るように、ギター、ベース、ドラム、キーボードなど27種類の楽器が常にセットアップされ、コントロール・ルームの機材も24時間体制でスタンバイ状態だったという。プリンスが死の直前まで取り組んでいた「ジャズ・アルバム」のラフミックスがスタジオ・モニターから流される。プリンスらしい独自のジャズ解釈で組み立てられた、シンプルかつクールなサウンドである。

隣のスタジオBは少し小振りでラフな雰囲気にまとめられ、スタジオの端には卓球台が設置されている。ペイズリー・パーク・ツアーでは一切の写真・動画撮影が禁止されている。ただしVIPツアー参加者のみ、このスタジオBで専任のカメラマンに記念写真を撮ってもらうことができる。ツアー開始前にレセプションでペイズリー・パークのマーク入りのメモリースティック($10)を購入し、スタジオBで撮影を担当するカメラマンに渡せば、プリンスが使用していたパープルのクラウドギターと同色のグランドピアノをバックに記念撮影を行い、画像データをこのメモリースティックにコピーしてくれるのだ。

スタジオBのドアはペイズリー・パークの長い廊下につながっており、壁面にはグラミー賞をはじめ、プリンスが獲得した数多くのアワード・トロフィーなどが掲げられている。この廊下を進んだ右側にあるのが、ツアーのハイライトである「パープルレイン・ルーム」である。映画のシーンに登場したパープルのバイク、クラウドギター、衣装などが展示され、設置された大きなスクリーンには映画の印象的なシーンが映し出されている。まさにプリンスの商業的成功のピークを彩ったメモラビリアの数々である。

さらに奥に進むと「グラフィティ・ブリッジ・ルーム」に入る。印象的な黄色のスーツ、黒い革ジャン、「パープルレイン」に登場した同型バイクの色違い(濃いグレーのメタリック)など、ファンにはたまらないアイテムが並ぶ。「グラフィティ・ブリッジ」は「パープルレイン」の続編として製作された映画とサウンドトラックだったが、興行的にも売り上げ的にも今ひとつだった作品だ。ジョージ・クリントンやメイヴィス・ステイプルス、ザ・タイムなど、プリンスゆかりのトップ・アーティストたちが参加した楽しめる作品なのだが、肝心なプリンス色が薄く、素晴らしい楽曲はあるもののファンとしては物足りなさを感じた記憶がある。
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ペイズリーパーク外観 Credit: Paisley Park – NPG Records
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ペイズリーパーク内のアトリウム Credit: Paisley Park – NPG Records pp-4
ペイズリーパーク内のパープルレイン関連展示 Credit: Paisley Park – NPG Records pp-3ペイズリーパーク内のスタジオA Credit: Paisley Park – NPG Records 

ペイズリー・パークの建物は正面から望むと、裏側に巨大な四角い建物が続いているのが見える。これがプリンス専用のサウンドステージである。天井は大型のライブハウス並みの高さを擁し、洗練されたPAシステムが完備されている。現在は一般公開用に巨大なスクリーンが設置された4パターンのステージが組まれ、それぞれのステージセットで行われたライブ映像が映し出されている。中に入るとまず目に飛び込んでくるのが正面のステージにセットされたパープルのグランドピアノ(ヤマハ製)で、このピアノをプレイした2016年1月のステージが、ペイズリー・パークでのプリンス最後のパフォーマンスとなった。マイルス・デイビスをゲストに招いて行われたニューイヤーズ・イブのライブ、プリンスの誕生月6月にファンを招いて1週間に渡って行われたスペシャル・ライブなど、このサウンドステージはプリンスの理想とするライブを行うために建造された特別な空間なのだ。

サウンドステージ横のドアを開けると、NPG(New Power Generation)ミュージック・クラブとネーミングされた、ちょっとサイケデリックな雰囲気に包まれたプライベート・クラブが設けられている。DJブースが設置されたステージがあり、NPGのロゴが記された赤い絨毯の上には、プリンス・マークが印象的なラグジュアリーなソファーが並ぶ。奥がバーカウンターになっており、ステージに向かって左側の壁面には小さな階段が設置され、登っていくとVIP用のプライベート席が用意されている。サウンドステージで3時間に及ぶライブを楽しんだ後は、ここNPGミュージック・クラブでアフターショウのスタートである。ライブ終了後、一旦は姿を消すプリンスだが、朝方このクラブに再び姿を現し、ゲスト・ミュージシャンたちと時間を気にせずジャム・セッションを楽しんだという。NPGミュージック・クラブでツアーは終了となり、クラブの隣には、オリジナル・デザインのTシャツやパーカー、トートバックなどが並ぶペイズリー・パーク・ショップが設けられている。

1985年にプリンスからペイズリー・パークの設計を依頼された建築家のブレット・トーニーはこう話している。彼はサンタモニカに拠点多く建築デザイン会社「BOTOデザイン」のオーナーである。

「プリンスに出会ったのは1981〜’82年頃だった。ペイズリー・パークのプロジェクトは”パープルレイン”の撮影中にプリンスが着想して、僕に設計を依頼してきた。あの時代に、大企業やレコード会社は別として、アーティスト個人がスタジオやサウンドステージ、そして住居を擁する複合施設を建てるなんて聞いたことがなかったよ。彼はあらゆる楽器を演奏し、作曲し歌詞を書いていた。だからすべてのプロセスを一つの屋根の下に統合するビジョンを描いていたんだ。ペイズリー・パークは、プリンスのプライベートな生活とアーティストとしてのクリエイティビリティをシームレスに統合させた、彼にとってはまさにユートピアだったのさ」

ペイズリーパーク 公式ウェブサイト
Paisley Park
7801 Audubon Road,
Chanhassen, Minnesota
https://www.officialpaisleypark.com/
一般入場チケット:
USD38.50+手数料(購入時期により変動あり)
VIPチケット:
USD100+手数料(ツアー中に追加料金でオプションあり)
アフターダークチケット:(クラブ+一般入場)
USD60+手数料
*チケットは公式サイト上から購入可能

取材日:2016年10月30日
桑田英彦 (くわた・ひでひこ)

ライター/フォトグラファー

音楽雑誌の編集者を経て渡米。1980 年代をアメリカで過ごす。帰国後は雑誌、機内誌や会員誌などの海外取材を中心にライター・カメラマンとして活動。アメリカ、カナダ、ニュージーランド、イタリア、ハンガリー、ウクライナなど、海外のワイナリーを数多く取材。著書に『ワインで旅するカリフォルニア』『ワインで旅するイタリア』『英国ロックを歩く』『ミシシッピ・ブルース・トレイル』(スペースシャワー・ブックス)、『ハワイアン・ミュージックの歩き方』(ダイヤモンド社)、『アメリカン・ミュージック・トレイル』(シンコーミュージック)等。雑誌『サファリ』にてカリフォルニアのホテルのコラムを連載中。